大判例

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最高裁判所第三小法廷 平成7年(ク)532号 決定 1995年11月16日

《住所略》

抗告人

末永貞二

《住所略》

抗告人

春日登

《住所略》

抗告人

高橋信亮

《住所略》

抗告人

戸塚武

《住所略》

抗告人

関浩一

《住所略》

抗告人

白子繁

《住所略》

抗告人

秋葉晋

《住所略》

抗告人

加藤澄一

《住所略》

抗告人

齋藤展世

《住所略》

抗告人

村上一宇

《住所略》

抗告人

田村信義

《住所略》

抗告人

渡邉晧一

《住所略》

抗告人

小関信昭

《住所略》

抗告人

岩谷忠也

《住所略》

抗告人

相場信夫

右15名代理人弁護士

土屋公献

高谷進

小林哲也

小林理英子

加戸茂樹

千田賢

《住所略》

相手方

鈴木晃

右抗告人らは、東京高等裁判所平成6年(ラ)第825号、第839号、第841号、第842号、第846号担保提供申立却下決定に対する抗告、担保提供命令に対する抗告、担保提供命令申立一部却下決定に対する抗告について、同裁判所が平成7年7月31日にした決定に対し、更に抗告の申立てをしたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

民事事件について最高裁判所に特に抗告をすることが許されるのは、民訴法419条ノ2所定の場合に限られるところ、本件抗告理由は、違憲をいうが、その実質は原決定の単なる法令違背を主張するものにすぎず、同条所定の場合に当たらないと認められるから、本件抗告を不適法として却下し、抗告費用は抗告人らに負担させることとし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄 裁判官 大野正男 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信)

●特別抗告理由書(平成7年8月29日付)

平成7年(ラク)第316号事件

抗告人 末永貞二

外14名

相手方 鈴木晃

平成7年8月29日

右抗告人ら訴訟代理人弁護士 土屋公献

同 高谷進

同 小林哲也

同 小林理英子

同 加戸茂樹

同 千田賢

最高裁判所 御中

特別抗告理由書

第一 本案請求原因第四・三関係の憲法違反(原決定の憲法第11条、第29条第1項及び第14条第1項違反)

一 東亜ファイナンスの光進に対する250億円の貸付けに関し、平成2年6月14日、ニューホームクレジットが債務引き受けをし、蛇の目不動産が担保提供をしたこと(本案請求原因第四・三関係)について、原決定は、「100パーセント子会社に損失が生じた場合、特段の事情のない限り、それは親会社にとっても損失となる」と判断し、右250億円の債務引き受けについて請求原因事実の立証の見込みが低いと予測すべき顕著な事由があるということはできないとして、担保提供を命じなかった。

しかしながら、右「100パーセント子会社に損失が生じた場合、特段の事情のない限り、それは親会社にとっても損失となる」との判断は、財産権について子会社である法人(ここでは蛇の目不動産)の人権享有主体性を否定するものであり、包括的基本権保障規定である憲法第11条に違反するものである。また右判断は、子会社の財産権を否定するものであって、財産権を保障した憲法第29条第1項にも違反するものである。さらに右判断は、親会社と子会社との法人相互間の不平等を何らの合理性なく認めるものであって、憲法第14条第1項の平等権及び平等原則にも違反するものなのである。

二1 まず、法人が基本的人権の享有主体でありうるかとの問題は、今日では、異論なく肯定されるところである。法人の人権享有主体性については、御庁においても、いわゆる八幡製鉄政治献金事件につき、「憲法第3章に定める国民の権利及び義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されると解すべきである」(最判昭45・6・24民集24巻6号625頁)として、法人の人権享有主体性を認めている。そして、「性質上可能なかぎり」とは、「当該人権が自然人固有のもの以外」と解されるのであって、財産権のような経済的自由権を法人が享有できることは当然である。

ところで、法人に人権享有主体性が認められる根拠は、法人の社会的機能に求められる。すなわち、現代社会において、法人は自然人と並んでその重要な構成要素であり、自然人と同様に活動する実体を備えているところに人権享有主体性の根拠が求められるのである。そうであるとすれば、享有主体性の有無の判断は、法人の株主数や資本金の多寡あるいは他社との関連等に依拠するのではなく、実質上その法人が社会的実体を有しているか否かに求められるのである。

したがって、当該法人が社会的実体を有している以上、100パーセント子会社であろうが、孫会社であろうが、日本国憲法上人権を享有できることは明々白々なのである。

2 ところが原決定は、100パーセント子会社の損失は、特段の事情のない限り、親会社の損失であるとする。これは、子会社の損失を親会社の損失と見る以上、子会社の利益も親会社の利益と見るものであり、100パーセント子会社について、財産権という人権の享有主体性を否定しているものにほかならない。

前述のとおり、子会社であっても、社会的実体が備わっている以上は、人権享有主体性が否定される理由は存在しない。独立の経済主体として活動し社会的機能を有している法人である蛇の目不動産の権利享有主体性を否定する原決定は包括的基本権保障規定である憲法第11条に違反し、許されるものではないのである。

三1 次に、憲法第29条第1項は、財産権不可侵の原則を謳うが、ここで保障される財産権は、国民が、単に形式的に自己の名で財産の帰属主体になり得ることのみが保障されているのではなく、実質的に財産の帰属主体となること、すなわち、自己の名において経済活動をなし、その経済活動の結果としての利益及び損失の帰属主体となることをも保障されているものなのである。憲法第29条第1項が、形式的にのみ財産権を保障したものであると解すれば、同項の保障の前提となる私有財産制そのものが否定されることになってしまうのである。さらに憲法第29条第1項は私有財産制の制度的保障と解するとすれば、同項が実質的に財産権を保障していることはより一層明らかなものとなるのである。御庁においても、労働組合による生産管理が問題とされた事件において、我が国の法律秩序が私有財産制を基幹として成り立っていることを明示しており(最判昭25・11・15刑集4巻11号2257頁)、憲法第29条第1項が形式的にではなく、実質的に財産権を保障していることは当然なのである。

2 ところが原決定は、100パーセント子会社の損失は、特段の事情のない限り、親会社の損失であるとする。すなわち、これは、100パーセント子会社については、形式上あるいは名目上財産権の帰属主体であることは認めるが、財産権の実質的な帰属主体であることを認めないということを宣明しているのである。例えて言うならば、原決定は、未成年者には私有財産を認めず、未成年者名義の財産はすべて実質的に親権者に帰属すると宣明しているのと同様なのである。

このことは、原決定が、100パーセント子会社については、私有財産制そのものを否定していることになり、憲法第29条第1項に違反することは明らかである。

四 さらに原決定は、前述したように、親会社には人権享有主体性を認め、また財産権の実質的な帰属主体であることを認めているが、100パーセント子会社にはこれらを認めていないという点において、不合理な差別をするものであって、憲法第14条第1項にも違反している。原決定による差別は、子会社ということのみに着目した差別であるが、親会社と子会社との差とは、株主が誰であるかということに尽きる。すなわち、原決定による差別は、「株主による差別」と呼ぶべきものであるが、本来、株主とは没個性的なものであり、男女間の生理的機能に基づく差別のように合理性を有するものではない。また、仮に原決定が、100パーセント株式の保有という経済的支配関係を根拠に子会社を差別しているとすれば、それは直ちに憲法第14条第1項に明文上禁止された「経済的関係」における差別となり、明白に不合理な差別となる。

したがって、原決定は、憲法第14条第1項の平等権及び平等原則にも違反するものであり、到底許されるものではない。

第二 本案請求原因第四・四関係の憲法違反(原決定の憲法第32条及び第14条第1項違反)

一 ジャパン・エル・シー・ファイナンス(日本リース)の小谷に対する390億円の貸し付けに関し、ジェー・シー・エルが債務引受けをし、蛇の目ミシンが担保提供をしたこと(本案請求原因第四・四関係)について、原決定は、一審決定の「主張は不十分であるが、主張自体失当というほどではなく、立証の見込みが低いと予測すべき顕著な事由の疎明もない」旨の判断をそのまま維持し、担保提供を命じなかった。

しかしながら、右判断は、同一事実についての別件である東京高等裁判所平成6年(ラ)第840、843、845号担保提供申立却下決定等に対する抗告事件(本案原告・野口泰生外1名、以下「野口事件」という)の決定が担保提供を命じたことと比較すれば、右野口事件が確定していることからして(御庁平成7年(ラク)第98号特別抗告事件・平成7年6月14日決定)、本件特別抗告人らの平等な裁判を受ける権利を害するものである。したがって、原決定の右判断は裁判を受ける権利を保障する憲法第32条及び平等権を保障する憲法第14条第1項に違反するものである。

二 憲法第32条は、全ての人に対し、法律で設置された、権限のある、独立の、かつ、公平な裁判所による公正な公開審理を受ける権利、すなわち裁判を受ける権利を人権として保障するとともに、国家に対して、裁判の拒絶を禁じている。ここで保証されている人権としての裁判を受ける権利は、憲法第14条第1項の平等原則に基づき、「平等な裁判」を前提としている。これは、我が国が加盟している「市民的及び政治的権利に関する国際規約(国際人権規約B規約)」の第14条第1項が「すべての者は、裁判所の前に平等とする」と規定していることからも明らかである。

ここで「平等な裁判」とは、すべての者が裁判所に訴えを提起する権利を有するということにとどまらず、同一事実については同一の判断を受けることができるという権利をも包含しているものと解される。特に究極的司法審査権を有する最高裁判所においては、同一事実に対する判断が、提訴当事者によって区々別々になっては、権利擁護は果たせず、国民の裁判に対する信頼は失われることになってしまうのである。

三 ところで、野口事件においては、東京高等裁判所は、ジャパン・エル・シー・ファイナンス(日本リース)の件に関し、「すでに物的担保責任を負う者が担保物を売却してその売却代金を弁済に充てたことによって損害が生じるというのは、担保提供行為が無効である場合であるが、その旨の主張がなく、仮にあったとしても立証できる見込みは少ない」とし、さらに「売却価格が仮に不当であったとしても、その売却代金による弁済によって、責任を免れるとすれば、物上保証人には何ら損害が生ずることはない」旨指摘して、本案原告らに担保提供を命じている。これに対して、原決定は、担保提供を命じていないのであるが、同一事実を前提としているにもかかわらず担保提供を命じないことは、抗告人らに対して「平等な裁判」の保証がなされていないこととなる。

よって原決定は、裁判を受ける権利を保障する憲法第32条及び平等権を保障する憲法第14条第1項に違反するものである。

第三 その他の本案請求原因関係の憲法違反(原決定の憲法第32条違反)

一 原決定は、本案請求原因第四・一関係、同第四・二関係、同第四・四関係、同第四・五・1及び3関係について、一審決定の「主張は不十分であるが、主張自体失当というほどではなく、立証の見込みが低いと予測すべき顕著な事由の疎明もない」旨の概括的判断をそのまま維持し、担保提供を命じなかった。

しかしながら、右各請求原因は、当然のことながら別異の事実に対するものであり、それを一括して、個別事実の精査なくして判断したことは、特別抗告人らの公正な裁判を受ける権利を害するものである。したがって、原決定の右判断は裁判を受ける権利を保障する憲法第32条に違反するものである。

二 憲法第32条で保証される裁判を受ける権利は、「公正な裁判」を受ける権利を包含するものであることは争いのないところである。そして、ここで「裁判」とは、法令を適用することによって解決しうべき権利義務に関する当事者間の具体的紛争が提訴された場合に、その権利義務の存否を確定する作用である。そうであるとすれば、併合請求の場合、具体的紛争である各請求原因ごとにその内容が吟味されなければならないことは当然であり、そのことが「公正さ」を担保することになる。

ところが、原決定は、前述したように五つもの請求原因につき、その担保提供の可否について一括して判断しているのであって、「公正さ」は確保されているとは言い難い。したがって、原決定の右判断は公正な裁判を受ける権利を保障する憲法第32条に違反するものである。

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